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「自分で実行した売買の記録とはとうてい思えなかった。まさに三流のばくち打ちの行動であり、駆け出しのころだってこれほどひどくはなかった」これは・・・

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トレードに勝つためのメンタルに効く優れ本:綾木望
トレードに勝つためのメンタルに効く優れ本:綾木望

■たった一度のルール破りで億万長者から破産者へ

「自分で実行した売買の記録とはとうてい思えなかった。まさに三流のばくち打ちの行動であり、駆け出しのころだってこれほどひどくはなかった」

世紀の相場師ジェシー・リバモア

これは伝説の相場師の人生を描いた本『世紀の相場師ジェシー・リバモア』の一節だ。1929年の大恐慌による暴落の前から、株を空売りして莫大な富を築いたリバモア。少年のころから相場の世界に入り、豪邸に住み、ウオール街の超有名人の彼が、綿花相場に手を出して破産したのだった。彼はそのときのことを、

「私が全財産を失ったのは唯一、自分で自分のルールを破ったときだった」

という。敗北の大きな原因は、自分の知らない綿花についての情報を与えてくれる人を信じすぎたということと、何よりも相場が思惑と反対に動き始めたときに、損を切らずにナンピンを続けたことだ。自分の損を相場で取り戻そうとしたときに破滅への落とし穴が開いた。

巨万の富を築いた大相場師が自分のルールを破ったとたんに破産した。しかし、彼を笑える人はいないはずだ。ふつうは、トレードを始めて経験を積めば積むほど、トレードの難しさを思い知らされている人が多いはずだ。最初こそけっこう調子よく勝つが、そのうち負けがこんでくる。「こんなはずじゃなかった」なんて思ってあせり、勝っていたころの自分のスタイルを完全に壊してしまう。

■ルールを守るために必要なのはメンタルパワー

ようやく初心者を脱したころに、トレードに勝つにはファンダやテクニカルの分析より、なんといっても自分のルールを守るためのメンタル面の力こそ必要だと気づき始めるはずだ。

確かにいろいろな投資本を読むと、判で押したように「自分のルールを守る」「損切りは早めに、利確はゆっくりと」などと書いてあるが、私にいわせれば、「それはお題目じゃないですか。だから、それを守るためのメンタル面を教えて欲しいんですよ」ということになる。

損切りを早めにとおっしゃるが、買値から下がったから3回損切りをしたら3回とも値を戻して悔しい思いをした人が、次も損切りできるだろうか。それができるには何十回も損切りして、本当に損切りの大事さをわかってからではないだろうか。損切りしたらまた戻したというのでは、確実に損が発生したうえに、心に大きな後悔が残る。

その精神的な苦痛の解決法まで言及した本がほとんどない。とくに、日本人が書いたものにはまずないと思える。それは、書いた人が本当はトレードをやってないか、逆に長嶋さんみたいに天才的な人で、ふつうの人が陥る苦痛が理解できないかだろう。しかし、今、読者が本当に必要としているものこそ、メンタル面をどう鍛えて相場に臨むかということだ。

■厳しい経験を基にした素晴らしいアドバイス

今回紹介する本のうち、実在の人物を扱った物語は、前述の「世紀の相場師ジェシー・リバモア」だけだが、この本は読みものとして面白いだけでなく、示唆に富む言葉がきら星のように散りばめられているので一読の価値がある。

そして、以下はトレードに臨むにあたって一番気になる、心構えと、その心を鍛える本の紹介だ。

まず、良書と評判の高いのが、『ゾーン(相場心理学入門)』。

ゾーン(相場心理学入門)

これは次に紹介する『規律とトレーダー(相場心理分析入門)』と同じマーク・ダグラスが書いたものだ。著者は現役のトレーダーであり、トレーダーの心理を教育する会社を経営している。

自分自身、トレーダーで一度自己破産に追い込まれた経験をしている。彼は成功するトレーダーのことを「マーケットの気まぐれな値動きを恐れず、不安を助長するような情報に気を取られるよりも、収益機会を伝える情報に神経を集中させる能力を身に着けている」と言い切っている。

儲け続けられる人は「一貫性への扉」を突破する方法を取得したわずかな人だけだと、トレードで成功する難しさを述べている。つまり、なぜ勝てないかというと、ルールを守り、自分が勝てる優位性を見つけてトレードしても、トレードが何の保証もない可能性に賭けていることを本当にわかっていないというのだ。

そのあたりはよくわかる。でも、そのことにちゃんと触れている本はほとんどない。ルールを守れば勝てるなどと安易なことを書いているのがほとんどだ。

たとえば、トレードの教科書には、「長期線を短期線が下から突き抜けるゴールデン・クロスが出たら買い」なんてお約束のことが書いてあるが、ゴールデン・クロスで買ったとたん「待ってました」と大口に売り崩されたときに、神経を正常に保てるだろうか。カーッとなって、また、資金を入れて、そのままもっと下へもっていかれたなんて例は山ほどあるだろう。

しかし、本当に優れたトレーダーはそんな目にあっても、自分の規律、集中力、自信を失うことはないという。この『ゾーン』では、そういうトレーダーになるための自己訓練の方法がたくさん書かれている。それについては本書を読んでもらうしかない。

なぜ、勝ったり負けたりするのかというと、少し勝ち続けると自己陶酔が起き、それがどれほど精神に悪影響を与えるかを理解しておらず、負けて自暴自棄になる可能性を解消する方法をわかっていないというのだ。

ちなみに、『ゾーン』とは、自分とマーケットが本当に同調している状態だという。とにかく、この本は具体的で、本質的な指摘に満ちている素晴らしい1冊だ。

そういえば、2月号で、ブラッドリー・フリードさんが日本人トレーダーは勉強熱心と書いていたが、マーク・ダグラスも勝つために一生懸命研究する人について、トレンドライン、ポイントアンドフィギュア、RSI、ストキャスなど、きりがないほど多くのテクニカル分析を学ぶことがかえってよくないとしている。

つまり、いくつか売買シグナルが出てるのに、すべてのシグナルが出なければならないと思って、トレードができないままになるという。確かにそうだと思う。フリードさんいうところの「裸のトレード」がいいというのがうなずける。

■トレードでは役立たずの日常生活での成功体験

そして、同じ著者の『規律とトレーダー』も素晴らしい。

規律とトレーダー

『ゾーン』より先に書かれたものだが、トレーダーが損するのは、マーケットで自分が損をするような情報に目がいく性質があると指摘する。戻すと思って逆張りしてやられることはよくあることだ。

そして、マーケットで勝てないのは、自分が生きてきた社会とマーケットは根本的に違うからだという。彼の理論からすれば、われわれは何か自分の希望をかなえようと思えば、ひたすら相手に働きかける。たとえば、仕事でも、そうすることによって相手が反応してくれること期待できるからだ。

しかし、マーケットは働きかけてもまったく意味がないという。つまり、マーケットはみんなの気持ちが集まって動くから、あくまでもそのマーケットに合わせるしかないというのだ。実に正しい見方だと思う。われわれはついそれを忘れて、「もうそろそろ反転するだろう」「このまま上がってくれるだろう」とか自分勝手に予測する。

トレードでは、日常生活で培われたものとは決定的に違う考え方へ自分が変わらなければならないというのだ。そして、本書ではトレードに向かって心のあり方をどう変えていけばいいかについて、実に丁寧に説明している。

この著者は、自分がトレーダーであり、大失敗したことでいかに人間が脆く、マーケットに同調するのが難しいかを知り尽くしているようだ。だから、一言、一言が実に重い。これも優れた一冊だ。

■トレードすることで自分が分裂していく

次にちょっと毛色が変わっているのが『精神科医が見た投資心理学』だ。

精神科医が見た投資心理学

この著者は実にユニークで、精神科医でトレーダーというブレッド・スティンバーガー。それだけに、人間心理とトレードについて実に深く考察している。この本がユニークなのは、各章が実際に先生にカウンセリングを受けた人の例を紹介して、それをトレードに置きかえて説明していることだ。

たとえば、卒業前に妊娠してしまった女学生、なぜか自分が大手スーパーの店員だと思っている男など、ちょっと困った人たちの相談の内容と、では、それをトレードでどう生かすかと述べている。心が病んでいる人たちを相手にすることで、先生はトレーダーの心の問題点を浮き彫りにしていく。

前書きには、「ふしぎと投資家は繰り返し破滅的な感情パターンで投資する癖がある。こういう行動は、よく注意して構築され、検証されたシステムをも脱線させかねないのだ」とズバリいい切っている。

まさに、このあたりに悩んでいるトレーダーが多いと思う。リバモアの例を待つこともないだろう。あなたも、「なんであそこであんなバカなエントリーしたんだろう」なんて思うだろうけど、それはあとで冷静になったからこそわかるのだ。

そのあたりをスティンバーガー先生はよくご存知で、たとえば、ルール通りエントリーしても、状況が変わって、思惑通りにマーケットが動かない場合に、その人の心が分裂して複数の「私」が呼び覚まされる。この状況に対して、人はあまりにもぜい弱で不安定という。分断された自分は決断を衝動的に行い、簡単に読める市場パターンさえ見逃すこととなる。投資分析をした「あなた」と、投資をした「あなた」とは違う人間だったのだと、きっぱり。まさにそのとおりではないか。

エントリーしてうまくいけば、利確目標を大きく修正し、その結果、思い切り反転の憂き目を見る。まるで最初にルール通りエントリーした人が、留守をしてその間に違う自分が現れて、勝手にルールを破ったような気持ちになることは山ほどあるだろう。

もちろん、よくいわれる「強欲と恐怖」がその背景だろうが、それについてちゃんと対処法を説明した本はほとんどない。

そのあたりをスティンバーガー先生は豊富な経験から解き明かしてくれる。たとえば、自分が成功するためのパターンを編み出すだけでなく、常にそのパターンを使うためには、古いパターンを捨てて、かならず新しいパターンにアクセスしなければいけない。しかし、それだけではだめ、それを習慣として定着させなければならないというのだ。たとえば、せっかくダイエットをしたのにそれを習慣とできなかったらまたリバウンドしてしまうということだ。それはやはり難しいことかもしれない。

また、スティンバーガー先生はトレードを本当によくわかった人で、「市場には感情の高揚や認識のバイアスのパターンを動かす不気味な力がある」と、おっしゃるとおりとしかいえない。この不気味な力にどれほど多くのケースでトレーダーが泣かされてきたか……。

■テクニックではなく自己を知ること

最後が「投資の行動心理学」。

投資の行動心理学

これも、トレーダーでテクニカル・アナリストである、ジェイク・バーンスタインの著書だ。彼も学生時代に商品相場に手を出して、ビギナーズラックのあと大金持ちになるつもりですべてフッとばしてしまった。その経験をもとに研鑽を積んだということになる。

彼も「重要なのはテクニックでなく、己を知るということ」といっている。どうしたら勝てるトレーダーになるかを丁寧に説明しているが、なかには「あなたは、事実の代わりに、期待や恐怖を基に行動するだろう。辛抱できなくなるだろう。行動が早すぎるか、行動を起こすのが遅れてしまい、自分の人間的弱さのせいで自分を欺き、マーケットのせいにする」などとぐさりといってのける。しかし、ストップ・ロスが上手になるプログラムなども入っており、やはり、この本も大変有効だと思う。

以上、紹介した本は、私が数百冊に及ぶ投資本を読んだなかで、メンタルについて極上の内容が書かれたものだと思ったものである。多少難しい部分もあるけれど、読んでいくうちに、トレードで何が大切で、そのために何をすればいいかがはっきりわかってくる。

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